東:JFAさんとの繋がりは、マーケティング部門の方と弊社の専務(当時、現社長)が知り合いだったことから始まりました。その中でJYDについて提案いただき、社内で検討した結果パートナー締結に至った、というのが大まかな経緯です。
私は社会人までプレーヤーだったこともあり、サッカーが大好きなんです。仕事でも、ギラヴァンツ北九州のホームスタジアム『ミクニワールドスタジアム北九州』のPFI(※)事業や大阪・堺の『J-GREEN 堺』の事業化支援等を担当してきました。
※PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ):公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法
これらは一例ですが、これまで会社の事業としてサッカーに多く関わってきました。施設単位の関わりにとどまらず、「協会と組むことでサッカーと関わる幅が広がるのではないか」と議論をし、会社にとってもJYDの話は良い流れになるだろうと判断しました。
「良い流れ」というのも、ちょうど日本総研が30周年を迎える時期だったのです。次の30年に向けて、今までとは違う日本総研を作っていく必要性を感じていました。 JFAさんは、国内でも有数の規模を誇るスポーツ組織です。いちクラブへ協賛するより強烈な可能性があるのではないか、一緒に新たな変化を生み出していきたいと考えたことが、決め手でした。
佐藤:日本のコンサル分野には、大きくプライベートセクターとパブリックセクターの2つがあります。前者の対象は民間企業、後者は自治体や行政です。
JFAさんは、実はいずれにも該当しないです。ソーシャルセクター(※)という、まだアメリカ等でのみビジネスとして展開されているコンサル分野になります。パートナーシップという形で日本総研がこの分野に取り組んでいくことは、新しい取り組みになると感じています。
※社会課題解決を目的とした組織・団体の総称
東:JFAはJクラブと違って、具体的な活動地域が決まっていません。9地域や47の都道府県サッカー協会が傘下にある、全国的な組織です。社会課題解決のために、さまざまな地域の情報に触れ、関わりを持ちながら活動できるのが大きな強みだと考えています。
東:JFAさんと組む上で、どのようなパートナーシップの形があるのかシミュレーションをしました。通常のスポンサーシップのように広告協賛等の形で支援するパターン、コンサルのノウハウを持った人をJFAさんに一定期間派遣するパターン。そして三つ目が、「ノウハウや業務を提供するパターン」です。こちらでJFAさんにも承諾いただき合意に至りました。
費用対効果といった数値的な話もあると思いますが、会社として重きをおいている部分ではありません。直接お金に変わるメリットは求めていないんです。JYDは、サッカーを通じて社会・企業・地域が持つ課題解決を目指すプログラム。我々はこの考え方に共感したので、これまで培ったノウハウを提供して力になりたいと考えました。
もともとソーシャル・イノベーション(社会変革)領域は日本総研が得意とするコンサル領域です。スポーツ施設、文化芸術施設、社会・環境インフラなどを、いかに事業として成立させていくかが目的となっています。「日本総研とJFAさんにメリットがある」ことではなく、「サッカーを通じて地域に変化を起こしていくこと」すなわち「地域のメリット」が重要だと捉えています。この変化がゆくゆくはパートナーシップの結果だ、となると嬉しいなと。収益プロジェクトではなく、“先行投資“のパートナーシップですね。
佐藤:社員のモチベーションにも繋がっていると感じています。私もサッカーが好きですし、仕事で関われるのはとても嬉しいです。商品を持っている企業さんと違って、コンサルという立場から幅広く柔軟に関われるのも魅力的だなと。
また、スポーツに関わることで、採用時にもプラスに響きます。学生と話していると、とても反応が良いです。コンサル企業が横並びにある中でも、サッカー・スポーツという言葉をフックに日本総研に興味を持ってもらえることはしばしばあります。
東:日本は、ヨーロッパなどに比べると圧倒的に芝生の面積が少ないです。育成時代に土でプレーすると、将来に影響が及びます。日本人のラグビー選手がパスをする際に足場を気にして手元に目がいき、相手を見れていないことが問題視されていますが、これは一例です。環境づくりに力を入れて支援していきたいと考えています。
あとは、単純にグラウンド数も少ないですよね。施設予約システムに登録してわざわざ予約する必要があったり、朝早くから抽選に並んで確保する必要があったりします。あるJクラブからは、スクール事業のために抽選に並んだ結果とれなかった、という話を聞いたことがあります。また別のJクラブでも子供向けのスクールをやろうとしたけど、抽選に外れてグラウンドがなくなり中止したこともあったようです。活動場所の確保は、多くのスポーツ団体が頭を悩ませていることだと思います。
公園やスポーツ施設などは、「与えられるもの」だと思っている方がほとんどなんです。公園然りスポーツ施設然り、自治体や行政が“準備してくれる“ところをお金を払って使うという認識ですよね。
そこでJFAさんと一緒に新たな発想を提案します。グラウンドや芝生環境を作りにいく活動をしよう、と。この活動を支援するためのガイドブック作成に取り組んでいます。
東:東京都板橋区では、小学生が「サッカーができる公園がない」と区議会に陳情を出した実例があります。その動きがどんどん大きくなって、最終的に公園ができたんですよね。
スポーツ基本法にも明記されている通りで、我々国民は誰もがスポーツをする権利を持っています。権利を行使するために、責任ある行動をすることが重要です。行政が作る側、市民は使わせてもらう側という決まりきった構図を壊していかなければ、スポーツ環境は変わっていかないと思います。
佐藤:ただ嘆願書を出すのではなく、ガイドブックでは市民と行政が一緒になってサッカーグラウンドを作っていくことを大切にしています。“ただの“サッカーグラウンドではなく、地域にとってどのような価値があるのかをしっかり吟味し、デザインしていくことが大切です。例えば、サッカーグラウンドがあることで地域の防災機能が高まるかもしれません。あるいは、人が集まることで経済活性化に繋がったり、健康づくりの教室を開くことで高齢者の健康度が上がる可能性もあるでしょう。グラウンドの裏側にあるまちづくりの価値を明確にして対話していく。この考え方を要視してガイドブックを設計しています。
自分たちのまちを市民自ら声をあげて作っていくのは、市民のあるべき姿だと思います。日本が取り戻さないといけない部分だと感じています。こういった流れをガイドブックから作りたいと思っています。
東:行政は、公平性を重視して判断します。「サッカーのために」行政が動くことはほとんどないです。「地域のために」グラウンドを作るんです、とアピールする必要があります。
佐藤:本来、各地でガイドブックのワークショップや、実際の行政との交渉に同行する活動を予定していました。ですが、コロナの影響で中止になってしまいました。代わりにオンラインでのワークショップを実施していて、JクラブやWEリーグクラブ、その他多くの関係者などが、私達の活動に興味を示していただいています。コロナ禍が明けたら、リアルで対話しながら一緒にグラウンドを作っていく活動もしていきたいです。
今後は、ガイドブックを参考に進め実際に完成した施設事例を出すことが目標です。モデル事例が出てくると、さらに広がっていくのではないかと期待しています。
すでにガイドブックとは関係なく動いているところもあるので、どう仕掛けていったのかや難しかったところなど、事例としてガイドブックに入れ込んでいく予定です。
社会課題解決にスポーツが果たす役割は大きいと思います。まだまだ可能性を活かしきれていないのです。JFAさんと、皆さんと一緒に、社会を変えていきたいと思っています。